暮らしと仕事の境界線



工房にある、おおきなスイッチの事を紹介します。

このスイッチは、仕事場の照明を点ける為に取り付けたモノです。
何か面白いモノは無いかなと、祖父が残した古い道具箱の中を
ゴソゴソと物色していたときに、このスイッチを見つけました。
その愛嬌のあるカタチと色が何となく気になりまして、
以来、ちょいと失敬して、自分の道具箱の中に入れておいたモノでした。
照明の配線をやり換えたとき、道具箱の中でふと目に止まった
そのスイッチを、面白がって取り付けました。
いま現在、仕事場の入り口横に、すとん、と収まっています。
仕事場に入るとき出るとき、1日数回、ほぼ毎日、このスイッチに触れています。

仕事場には色々なモノがあちこちに雑然とならんでいるのですが、
このおおきなスイッチは、そんな中でもお気に入りのひとつです。



さて、岩屋工房は、住まいと仕事場が隣り合わせにあります。
例えば、朝の食事を終えて、そして仕事場の席に着くまでに間がありません。
暮らしと仕事の境界線が、なんとも曖昧です。

仕事場でつくっているものは、日々の暮らしのうつわですので、
暮らしの空間と、うつわをつくる為の空間が隣り合わせにあって境界線など無い、
という方が、制作する思考にとって良いことだと思っています。
とは言うものの、仕事の時間には仕事の事だけを考えていよう、と思うと
よし、ここからは仕事場だ、という境界線が欲しくなったりするのです。
矛盾してしまいます。

そんなとき、このおおきなスイッチが、心地よい境界線になります。
その愛嬌のあるカタチと色と、電源を入れる際の必要以上のおおげさな動きで、
境界線のイメージを視覚的に手伝ってくれます。
実際は仕事場の照明を点ける為のスイッチなのですが、
仕事をする意識をオンにする為のスイッチも兼ねています。
スイッチのレバーをぐいっと押し上げ、「さてこれから仕事だ、」と思うのです。

自分達のやっている仕事にとって、暮らしと仕事の境界線は
あるような無いような曖昧な線が引かれているのが、勝手が良いようです。

そんな訳で、祖父が残したこのおおきなスイッチには、感謝しているのです。
でも、道具箱から勝手に失敬してしまいました。ゴメンナサイ。
(2004年2月)

散文集の目次へ戻ります。