「二足歩行とBGM」について


ウチの息子がいよいよ歩き始めました。
彼にとって人生初の二足歩行を私達の前で披露してくれたのです。
つい数日前の出来事です。

歩ける、という事実を、彼も楽しんでいるのでしょう、
満面の笑顔と、ちょっと驚いた表情を繰り返しながら、
「んぉ〜」と興奮のうなり声を鼻息まじりに発して、
そして、手を広げる私達の方に向かってきます。

人生初の二足歩行は、いきなり10歩近くも進んでいました。
そのシーンは、実際にはわずか数秒の出来事だったでしょう。
けれど、思い出そうと記憶のフィルムを巻き戻して見てみると、
ちょっと長めの、スローモーションの映像が焼き付いています。
面白い事に、何度か思い出しているうちに、BGMがついていました。
それ以来、記憶のフィルムをまわす度に、バックに流れるのは、
「2001年宇宙の旅」のテーマ曲なのです。
誰が編集して、誰が選曲したのか、その様に決まってしまいました。

それにしても、記憶力というのは、時に抜群の性能を発揮するものです。
普段はなんとも頼り無く曖昧な性能ですが、
こうして希に起こるインパクトの強い出来事については
はっきりくっきりと映像に残してくれます。
しかも編集機能も付いています。

あの日、初めて歩いた時の、彼の表情、歩みを思い出します。
何ともたどたどしい歩みです。けれどしっかりと前へ進みます。
やがてちょっとバランスを崩したかと思うと、とん、と尻餅をついて止まります。
彼は、ぱちぱち、と瞬きをして、そして次の映像は、
くっ、と私達を見上げている彼の表情にカメラは切り替わり、
彼の誇りに満ちた笑顔をスクリーンいっぱいまでアップにしてゆきます。

そして、バックに流れる曲は、「2001年宇宙の旅」なのです。
誰が選曲したのか、その様に決まってしまいました。




(2003年9月)

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