冬尻監督ありがとう みなさんもご存知のとおり、この映画はドキュメンタリーではありません。誇張や作り話、エピソードの合成・切り貼りがテンコ盛りです。にもかかわらず、不思議とウソっぽいとか騙されたとかいう感じを与えずに、あの時代の空気を忠実に伝えているのではないかと思います。見終わったときの不思議な感動は本物だと思いました。 いや、唯一騙されたと思ったのは、トニー・ウィルソンのイメージがすっかり良くなってしまったこと。今まで自分の中では完全に悪役だったのに。この映画では滑稽ながらも憎めないキャラで、最後に「ありがとうトニー!」と思わせてしまうという得な役どころでしたね。 しかし個人的には、ロブ・グレットンの存在(と彼の死による損失)の大きさを改めて痛感しました。地味ながらも彼がいれば大丈夫と思わせる、頼りになる忠犬のようなロブ。そんな彼がもうこの世にいないと知っているだけに切なかったですが、この映画ではロブが亡くなったことには触れていないんですよね。 そんなふうに、背景を知っていればそれだけ深みの増す作品だとは思います。ファンにしかわからない小ネタもちりばめられてるし(スティーブン&ジリアンがハシエンダへの入場を断られるところとか)。それにハシエンダ詣でをしたことのある人なら、その見事な再現ぶりにも胸が熱くなったのではないでしょうか。私はチケット売場の奥の壁にあったトニー・ウィルソンの特大写真の額縁にやられました。そういえばあそこに掛かってたよ!蝶ネクタイにカエルのような笑みを浮かべたウィルソンのでかい写真が(映画ではもちろんスティーブ・クーガン演じるトニーの写真ですが)。あれを見た瞬間記憶がどっと甦ってきました。 しかし、正直言って予備知識のない人が見ても面白いと思えるのか、ちょっと不安でした。試写会を見た時点では、観客がかなり限定されるんじゃないか、公開してもすぐ打ち切りじゃないか、と思いましたね。フタを開けてみたら渋谷で1ヶ月半も続いた後、各地で公開になったわけですから、まあヒットなのかな。このコーナーでも予備知識なしに見て楽しんだという方の感想文がいくつかあって、ほっとしました。 ファクトリーという、今はもう潰れた一インディ・レーベル。彼らがいかにダメで、でも素晴らしかったのか。どうして私はファクトリーを愛してやまないのか。それを説明するのは至難の技でしたが、これからは「まあこの映画見てよ」で、そのエッセンスは分かってもらえるのではないかと思います。 タンポポの種のひとつは、間違いなく私の人生に根を下ろしています。 |