この世は神話があふれている。

自らの死を予言された三井川正人。その予言は的中し、突如襲いかかってきた白メイド――αキス――にバラバラにされてしまう。だが、そんな三井川を救ったのは、黒園葵と名乗る少女だった。〈神話の遺産〉を巡った死闘。新たな戦いの神話がいま幕を開ける!!

 くそぉ、この左目、ものすごくよく見える……見たくない、現実が、よく見える。「やばいよ、黒園。三井川のやつ、痛くない自殺の方法を本気で考えるような顔してる」
「落ちこむな、三井川。なーに、ちゃんとソイツは機能するはずだ」「そうだよ、その股間のパーツは自信作。ボクたち超悩んでソレにしたんだよ」「そうそ、超悩んだよな」
 オマエら一分と考えずに結論出してたじゃないか、と。俺は唇のジッパーを開き文句をいってやろうとするが、がくり、と言葉を落っことしてしまった。
「あ、ダメだ。泣きそう…………」
 黒園は、落ちこむ俺の股間に手を伸ばして来る。
「さ、触るな!」
「いや、責任もって機能を確かめようと思っただけだってば……ほら、どうだ?」 黒園はもがく俺の腕を掴み、そこに落ちていたシャープペンシルを…………手にする。
「や、やめろふざけるな! 黒園! 何してるか、触ってるか、わかってるか!」「莫迦言え。神話の世界へようこそ。あたしはただ、シャーペンの性能を確かめてるだけさ」
 黒園はシャーペンを一回、ノックする。ノック一回分、芯が顔を出した。
 黒園は慣れた挙動でシャーペンを丁寧に、あるいは乱雑に、興味本位で、「へぇぇ」とか言いながら、シャープペンシルの機能性に感心している。「あ……いいのかな? これって見ててもいいこと? ボク、見てていいのかな?」
「あ、足利、頼む。後ろで背伸びしてこっちを観察してるその子を、どこか遠くへ」
「そうだよ冬羽ちゃん、見るもんじゃないよ」
「見てない。わたし、興味ないもん」
「足場まで確保して背伸びしてるだろ! 小桜、頼む、向こうへ行け!」
集英社/文庫/スーパーダッシュ文庫

アリフレロ / キス・神話・Good by

中村 九郎・著者/むらた たいち・イラスト


文庫判・276頁・定価:本体 571円+税
発売日2007/03/23 ISBN 9784086303507